急性アルコール中毒から回復する時間は?アルハラは違法行為です。
年末年始の宴会、3月の送迎会に続き、4~5月は歓迎会と、年末~春先は、加減の知らない新人・上司が、飲み過ぎ・飲ませすぎにより救急車で運ばれる事例が多発します
私はお酒が弱いので、泥酔する前に寝てしまうタチですが
飲み会の雰囲気は好きなので、この時期はテンションが上がります
未成年飲酒問題
そうは言っても、最近は世間の風当たりが厳しいので、未成年には特に飲酒などさせられません
店側も、未成年に飲酒をさせた場合に生じたトラブルに関して、「未成年飲酒禁止法」(営業者が50万円以下の罰金)に基づいて店側が一定の責任を追わないといけないケースも多いにあるようなので
特に学生街は、年齢確認が徹底して行われている店もあります
最近、未成年関係なく若い学生で「自分、お酒飲めないんです」という人が多い気がする
上司(私)との飲み会を回避する為なのか?!
そういうのを考えてしまうこと自体、老けたなぁと(´д⊂)
アルハラ問題
かくいう私も大学時代は運動部に所属していましたが
医学生だから少しはおしとやかな飲み方をするのかと思いきや
「ラブズッキュン」「サンダーバード」「なに持ってんの」などなど
居酒屋に入ったらコールのオンパレード
エンドレスに飲まされて、外に出たらオエオエ吐いている人や、店先に大の字になって寝てる人
特に他大学と交流戦をした夜は
まるで地獄絵図のような光景が内も外も広がっていました
(なお、医学生の1年生は、飲み会で無茶をしやすいと個人的には思っていて、受験期に抑え込んでいた感情が、合格で一気に放出されてハメを外しやすいのではないか?と想像しています。もちろん、個人差があります)
楽しかったけれど、それで大きな問題にならなかったから、いい思い出だと感慨深げに振り返れます
急性アルコール中毒の知識
そのような楽しい飲み会が悲劇とならないために
正しい知識を身に着けておく必要がありますね
1.アルコールの代謝・分解のしくみ
出典:日油株式会社 食品事業部 アルコール代謝確認試験
途中の代謝産物である「アセトアルデヒト」が、頭痛、吐き気、動悸などの症状を引きおこします。
人によってアセトアルデヒドを分解する能力には差があるため、上記のようないわゆる「二日酔い」症状の起こりやすさは、飲む量だけでなく個人の分解能も関係があります。
一般的には、アルコールが体から抜けて無毒化する速度は
体重あたり1時間に約0.1~0.13g(0.1g/kg/Hr程度)とされています
例えば、60kgの人がビール(アルコール5%)の500ml缶を2本飲んだ場合…
ビールのアルコール量は(500×2)×5÷100=50gなので
50÷(60×0.1)≒8時間と、体の中から排出するために7~8時間はかかる計算になります
2.急性アルコール中毒(alcohol intoxication)とは
ほとんどは大量の飲酒で、アルコールを多量に摂取することで生じます。
定義は少し複雑ですが、「アルコールの量に応じて生じる、意識障害を伴う運動失調や嘔吐などを生じた状態(=普通酩酊)」で、臨床的には血中濃度で0.16%以上、下の表で、酩酊期以上の症状が出現している場合、一般的には急性アルコール中毒と診断されます
(そう考えると、周りの飲み会で、急性アル中の診断を受ける人は意外に多そうだ…)
軽度のうちは、テンションが上がったり、頻脈になったりする程度ですが
喋り方が明らかにおかしいと感じたら、一人で立たせてみて、立位をキープできないようであれば、それ以上飲ませるのは危険です。
血中濃度が0.45%を超えて来ると、死亡率が上がるという研究もあります。5年間の東京での検査では、147人の急性アルコール中毒死があり、多発年齢は35~60歳。60%は11月~3月の冬期に起こっていますが、夏場でも病院外での死亡例は多くみられます。(東京都監察医務院における急性アルコール中毒死調査)
3.アルコールによる死亡原因
アルコールによる死因は多岐にわたり
1. アルコールによる中枢神経系への抑制作用で、呼吸の司令を司る脳幹部への麻痺が起こると、呼吸停止となるパターン
2. 泥酔して仰向けに寝ているところに嘔吐をしてしまい、吐物が気管に詰まって呼吸停止となるパターン
3. 直接の原因ではないものの、飲酒運転による死亡事故 などがあります
寝ゲロで死亡オチの人生なんて、本当に勘弁したいところです
4.急性アルコール中毒の人への対処
上記のような症状が出現して、これ以上飲ませるのはヤバイ!
そう考えたら、近くの人が取るべき行動がいくつかあります
まずは、意識のある人は暴れてでもお酒を飲もうとすることがあるので
お酒から遠ざけます。
なだめすかし、優しく介抱して、帰路につかせてあげましょう
もし、意識がなくてぐったりしている場合は
嘔吐で気管に吐物が詰まらないように、体を横向きにして寝かせます
そして、血管が拡張して体温が下がるので、毛布や上着をかけましょう
ほとんどの場合は、この処置で大事に至ることはまずありません
しかし、しっかり暖めているにもかかわらず
寒い時のシバリング(震え)とは明らかに異なるけいれん症状や
呼吸が非常に弱くなっている、もしくは喉にモノが詰まってゴロゴロと音を立てている
そんなときは、迷わず救急車を呼びましょう
5.病院での治療
ここからは医師の仕事になりますが、アル中患者さんが運ばれてきたら
まずは保温しつつ、意識、呼吸、循環の確認をします
大体、アル中で運ばれてくる人は、だいたいJCS 100~300(ゆすったり叩いても、目を開けない意識レベル)です。
明らかに呼吸に異常がある場合は気道確保し、最悪挿管も考慮する必要があります。
血圧の低下が著しければドパミン(2~5μg/kg/分)、ノルアド(0.1μg~/kg/分)等の投与を行います。
また酩酊中は、ふらついて転倒し、頭を強打することがあります
その結果、脳出血などを併発していることも珍しくはありません
なので、頭部外傷の有無は必ずチェックすべき項目です。外傷があれば頭部CTを撮り、時間が経って慢性硬膜下血腫を発症するリスクがあるので後日要フォローです。
大抵は、そんなこんなの心配なく
「とりあえず、生食いっとこー」
と、1,2本点滴して帰っていただく or 意識戻らずあえなく入院になることがほとんどです。
アル中の患者さんに対して厳しい先生もおり、比較的軽症には
「自業自得の状態に点滴するなんて、医療費の無駄遣いだ!」と、点滴せず処置室に患者さんを放置する先生もいたりします。
(実際、点滴をして回復が早くなるわけではありません。脱水の補正が目的です)
道路交通法の規定
ちなみに道交法では、呼気1L中に0.15mg以上のアルコールが検出された場合に「酒気帯び運転」としています。なんと、ビールでいうと500ml缶を1本飲んだときの最高血中濃度で超えてしまう可能性もある!
0.15mg/L以上で90日以上の免許停止ですが、、、
0.25mg/L以上では更に悪質ということで、免許取消+2年間の免許取得不可となってしまいます
3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、社会的にも非常に大きなダメージを追うことになってしまうため
「飲んだら乗るな、乗るなら飲むな」
これ大事!
なおアルコールチェッカーは、Amazonで2000円台で買えたりします
これで検問もばっちり!(乗るなってのに)
アルコールを飲ませた人の刑罰
また、お酒の強要は、刑事罰に問われる可能性があります。
①無理矢理お酒を飲まされた→強要罪(3年以下の懲役)
③倒れたにも関わらず、救急車を呼ばなかった→保護責任者遺棄致死罪(3カ月以上5年以下の懲役)
2017年の学生同士の飲み会で起こった下記の死亡事件は、2019年に「過失致死罪」で略式起訴されています(過失致死罪は50万円以下の罰金)。今後は、学生に対しても保護責任者遺棄致死罪が適用される可能性を考えると、部活動などでの飲酒も、気を遣いながらになりそうです。
(2019年11月2日 9時47分 読売新聞オンライン)
2017年に近畿大のテニスサークルの飲み会で一気飲みをした男子学生が死亡した事故で、大阪地検は、保護責任者遺棄致死容疑で書類送検された学生ら12人(22~23歳)のうち9人について、より法定刑の軽い過失致死罪で略式起訴する方針を固めた。
学生の飲酒死亡事故を巡る起訴は異例。他の3人は関与が薄いとして不起訴とする。
2年だった
登森勇斗 さん(当時20歳)は17年12月、サークルの飲み会で、ショットグラス約20杯分のウォッカをジョッキで一気飲みし、昏睡 状態になって別の学生宅に運ばれ、翌日、嘔吐 物をのどに詰まらせて死亡したとされる。大阪府警は今年5月、3年生4人と介抱役として呼ばれた2年生8人の計12人を書類送検。一部は起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。
まとめ
お酒に関する悪いことばかりを書きましたが
アルコールに関する最近のエビデンスを紹介すると
我が国の男性を対象とした飲酒と寿命の関係に関する先行研究においては、2日に1回、20gの純アルコール(ビール約500ml)を摂取した人の死亡率が最も低いことが明らかとなっています(Tsugane et al. Am J Epidemiol 150: 1201-7, 1999)海外でも、女性を対象に同様の研究結果があるようです。
「酒は百薬の長」というのは、あながち間違いでもなさそうです
飲酒は節度を守って、楽しい宴会を!