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麻疹(はしか)注意報発令中!症状や治療を解説します

アトピー・湿疹の男の子のイラスト
毎年春から初夏にかけては、麻疹(はしか)の流行が世間を騒がせます。
麻疹は一般的には「はしか」と読み、医療者は「ましん」と読んだりします。
ウイルスは「ましん」ウイルスです
 
 
というわけで、遅ればせながら、今回は麻疹について紹介していきます。
 

麻疹(はしか)とは

麻疹ウイルスが感染することで急性の全身感染症がおこります。感染者と直接触れる(=接触感染)だけでなく、感染者の咳などで空気中に漂っているウイルスを吸入することでも感染する(=空気感染)ため、ヒト→ヒトへ強い感染力で拡がります。
 
 
 
 
マスクやうがい・手洗いなどでは太刀打ちできないくらい感染力が強いため、もし周りに麻疹にかかった人がいた場合は、自分のワクチン接種歴を確認した方がよいでしょう
 
 
一度感染したことがある人は、免疫を獲得しているためその後麻疹(はしか)に罹患することは稀です(=終生免疫)。しかし、免疫機能の不十分な0歳時に罹患した場合は、免疫の獲得ができていない可能性もあるため、ワクチンは投与した方がよいでしょう。
 
予防のために、2006年からMRワクチン(麻疹・風疹の混合ワクチン)として、2回の定期接種が行われています。
1回目は1歳から2歳になるまでの間
2回目は就学前の1年間(5~7歳)
 
ちなみに、空気感染する重要な疾患は
①麻疹(はしか)
②水痘(みずぼうそう)
です。これ国家試験にでますよー
 

麻疹(はしか)の感染源

2015年には、日本で麻疹は排除されたとの認定を受けています。しかし、なぜ今になっても麻疹の流行が騒がれているのでしょうか?
 
それは、海外から麻疹ウイルスがヒトを介して輸入されているからです
 
 
2016年の国立感染症研究所によると、中国やインドを始めとした西太平洋、東南アジア諸国、ナイジェリアなどのアフリカ諸国では、各地域50,000件以上の麻疹発生の報告があります。アメリカ、カナダなどは100件足らずと少なめです。
 
 
これらの国から麻疹ウイルスが伝染し、春になると流行するわけです。
 

患者の背景

患者の中心は0~1歳の赤ちゃんですが、ワクチンを投与して時間の経った成人での発症例も近年は増えつつあります。
 
ワクチンを投与されていた場合、麻疹を発症しても軽度の発熱、咳など、軽い風邪のような症状で治ることが多いのですが、これを修飾麻疹と呼んだりします
 
 
当人はすぐに治るので安心なのですが、診断がつきにくく感染を拡大させる原因にもなってしまうところも厄介な病気です
 

麻疹(はしか)の症状は?初期は風邪と間違えやすい

 ウイルスに感染すると、1週間ほど潜伏期間を経たのちに発熱、咳、喉の痛みなど、風邪のような症状が出現します。
 
注意深く診察すると、顔面に発疹が出ていたり、目ヤニ・眼の充血などがみられることがありますが、成人でごく初期の症状だと、医師でも「感冒」と診断してしまうこともあります。
 
それから2,3日経つと、39度以上の高熱と全身の発疹が出現します。ほっぺの粘膜に、白い斑点が浮き出る「コプリック斑」などは、特徴的な所見とされています。
 
ここまではっきりと症状が出ると、病歴、ワクチンの接種歴などから麻疹と診断できます。
 

麻疹(はしか)の合併症とは?

「風邪っぽい症状くらいなら、別にワクチンとか要らないんじゃね」
 
と考えてしまう麻疹(はしか)ですが
 
 
怖いのは強い感染力と、重症化しうる合併症です
 
頻度として最も高いのは中耳炎です
乳幼児では耳だれ(耳からの膿)が出ることで気づかれることがあります。
経過観察で治癒することもありますが、耳鼻科によっては鼓膜切開をしたり、抗生剤を内服するなどすることもあるので、麻疹後に耳垂れが出たら要受診です。
 
また、重症化して死亡例が少なくない合併症は2つあります
 
肺炎と、脳炎です
 
肺炎には3種類あり
病初期にウイルスに対する自己免疫で発症する「ウイルス性肺炎」
二次的に細菌に感染してしまう「細菌性肺炎」
そして成人の一部や、ステロイドや化学療法などを使用している免疫不全者に発症する「巨細胞性肺炎」の3つです。
 
3つ目の巨細胞性肺炎は、元々の患者の状態も相まって死亡例が多く報告されています。
 
 
また、脳炎は麻疹患者1000人のうち0.5~1人(0.05~0.1%)にみられます
 
頻度は低めですが、致死率は15%とされ
60%は完全治癒しますが、20~40%は麻痺や精神遅滞などの後遺症を起こしてしまうことがあります。
 
 
そして、10万人に1人ともされる合併症が、亜急性硬化性全脳炎(SSPE)。
 
知能障害、運動障害で発症し、数ヶ月で全例が死亡してしまう恐ろしい病気です。発症後数年以上(7~10年)経ってから発症することがあるため、一度麻疹に罹患してしまうと、長い期間合併症の出現に気を配ることになってしまいます。
 

麻疹(はしか)の治療は?

特効薬はありません!
基本的に、他の人に感染しないように家でじっとしているのがよいです
前述したような合併症が出現した場合は、それに対する治療が必要になります
 
発疹がおさまってからも4日ほどは、周りへの感染力を持っている状態なので、治ったと思って学校や仕事へ行くと感染を拡げる原因になるため、注意が必要です
 

まとめ

もし周りに麻疹の方がいる場合や感染地域に赴く場合には
 
昔にワクチンを摂取していても、再度摂取することをおすすめします。
 
MRワクチンは、医療機関によりますが3,000~4,000円程度で受けられます

【事件】松本市の病院における13歳少年の脳ヘルニア死亡について振り返る【CT撮るべきか?】

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病院の過失で人が亡くなる、というのはあってはならないことです。
子供がその犠牲なら、なおさらです。
 
事件自体はかなり昔の話になりますが、長く続いている医療訴訟で以下のような記事がありました
 緊急搬送の13歳が死亡、当直医は必要な検査を怠ったのか-横浜地裁、東京高裁判決の詳報 地裁での遺族、病院側の主張
2018年5月1日(火)

頭痛を訴えて長野県の波田町波田総合病院(現:松本市立病院)に救急搬送された中学1年の男子生徒(死亡時13歳)が退院直後に死亡したのは、医師が必要な検査を怠ったためだとして、横浜市の遺族が病院側に計7173万円の損害賠償を求めた訴訟。横浜地裁は医師の過失を認めず訴えを棄却したが、東京高裁は一転して、松本市と当時の担当医に計3260万円の支払いを命じた。病院側は4月12日付で、「受け入れがたい」として上告している。横浜地裁、東京高裁の判決を詳報する。(後略)
引用: m3.com
 
 
 

日本の医療訴訟事情

医療訴訟の原告は患者側となりますが、原告側の勝訴率は2割と非常に低くなっています。
 
その理由として、病院側は勝つ見込みのない裁判はせず、分の悪い事案は慰謝料を渡して和解に持ち込むことが多いからと考えられます。病院はイメージ商売な部分もあるので、敗訴になってしまうと病院の存続に関わりますからね。
 
また医療という専門性のため、病院側の方が知識の豊富な分有利と思われます。分の良い・悪いに関しても、訴訟を起こす前段階で情報や知識を持っているのは病院側になるため、事が大きくなる前に手を打ちやすくなるのではないでしょうか。
 
 
そんな医療訴訟事情が背景にある中で、この事件は起こっています.
2009年なので今から10年前ですが、2019年7月に、最高裁が上告を棄却して原告勝訴となっています。
 
それにしても、とても長引きました。遺族の心労はさぞ大きかったことだと思います。

事件の流れ

事件の流れとしては
 
①13歳少年は事件当時、母と別居し祖父母・叔父と同居中であった
 ↓
②深夜に頭痛・嘔吐・(下痢)を主訴に総合病院へ救急搬送される
 ↓
③担当医師が「急性胃腸炎」「片頭痛」の診断で点滴した
 ↓
④叔父の運転で帰宅したが、その後少年は車内で休んでいた
 ↓
⑤数時間後、朝に車内で心肺停止の状態で発見され病院に搬送されたが、院内で死亡確認
 ↓
⑥死亡後の頭部CTで、左側脳室に9cm大の出血を伴う嚢胞性腫瘤を認め、腫瘤による脳幹の圧迫もみられた。直接の死因は脳ヘルニアとされた
 ↓
⑦「担当医が頭蓋内圧亢進症を疑って必要な検査や経過観察を怠った」として、唯一の相続人である母が原告となり担当医師と病院を開設した松本市に対して約7,137万円の損害賠償を求めた訴訟を起こす
 ↓
⑧一審の横浜地裁では,原告の訴えを棄却
 ↓
⑨二審の東京高裁では,一転して担当医師・松本市に対して3,260万円の支払いを命じた
 ↓
⑩病院側は不服として上告したが、最高裁は請求を棄却。判決が確定した
 
 
 
家庭環境はやや複雑そうですね…
 

争点は

争点としては
 
「搬送時・帰宅時に、検査義務違反・経過観察義務違反があったかどうか」
検査や経過観察を適切に行わなかったことと、嚢胞内出血で死亡したことの因果関係」
の2つが上げられています
 
もともと他院で片頭痛の診断は受けていたようですが
基本的に「頭痛・嘔吐」を主訴として来院した場合は
脳出血・脳ヘルニアを疑って頭部CTを行うべきだと思います(検査義務)
 
ただ、来院時の主訴に関しては遺族側、原告側でやや食い違う点があり
病院側は「嘔吐下痢が主訴で、頭痛は来院時におさまっていた」とし
遺族側は「搬送前から、頭痛・嘔吐を生じてぐったりしていた」としている
 
カルテにどれだけ記載されているかは不明ですが、主訴に関しては言った・言わないの水掛け論になる部分もあるかと思います。
 
ただ、帰宅時に亡くなった男子は、車の前で意識障害を疑うようなぐったりした状態になっており、安易に帰すべきではなかったと考えられてもおかしくないような状況です。
 
 

医療者にできることは

最終的に、2019年7月に最高裁が病院側の上告を棄却して判決が下されました。
しかし、こういった訴訟関連を医療者の立場として見ると
 
「じゃあ、訴えられない為にできることって何?」
 
と考えてしまうわけです。
現状、頭痛・嘔吐を主訴に来る患者は頻度がわりと高く、全例に頭部CTを撮っているわけではありません(夜間ならなおさら)。また、すべての病院で迅速にCTが撮れるわけでもありません。
しかし、判決文には撮る基準が明確でないにもかかわらず、そうしなければ「病院側に責任がある」と断じています。 
 
そうなると、医師が取るべき方法は1つしかありません
・同様の患者に対して、放射線技師を起こして(もしくは呼び出して)CTを全例撮る
・患者の希望等で撮らない場合は、しっかりとカルテに残す
 
国は医療費が高くて云々と言っているのに、裁判所や病院はお構いなしという感じですが、これが流れなら仕方ない、と思うべきでしょうか。

 

日本医療は崩壊していく

日本は、医療に関して本当に恵まれた国です

 
1961年から施行されている国民皆保険制度が施行され
 
すべての患者が1~3割負担、はたまた全額免除という、他国から見れば超レアカードを全国民が持っています。
 
 
そしてひとたび医療事故が起きれば、多額の慰謝料、賠償金を病院へ請求できる。
 
とてもとても、恵まれています。
 
 
医師って、そんなリスクを負ってまで、頑張って救急を受けるべきなんでしょうか?
 
自己犠牲の精神も結構ですが、既に日本の医療体制は破綻しつつあります。

急性アルコール中毒から回復する時間は?アルハラは違法行為です。

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年末年始の宴会、3月の送迎会に続き、4~5月は歓迎会と、年末~春先は、加減の知らない新人・上司が、飲み過ぎ・飲ませすぎにより救急車で運ばれる事例が多発します
 
私はお酒が弱いので、泥酔する前に寝てしまうタチですが
飲み会の雰囲気は好きなので、この時期はテンションが上がります
 
 

未成年飲酒問題

そうは言っても、最近は世間の風当たりが厳しいので、未成年には特に飲酒などさせられません
 
店側も、未成年に飲酒をさせた場合に生じたトラブルに関して、「未成年飲酒禁止法」(営業者が50万円以下の罰金)に基づいて店側が一定の責任を追わないといけないケースも多いにあるようなので
 
特に学生街は、年齢確認が徹底して行われている店もあります
 
 
最近、未成年関係なく若い学生で「自分、お酒飲めないんです」という人が多い気がする
 
上司(私)との飲み会を回避する為なのか?!
そういうのを考えてしまうこと自体、老けたなぁと(´д⊂)
 
 

アルハラ問題

また、飲酒の強要イッキ飲ませなどのアルコールハラスメントアルハラ)も、ハメを外した飲み会では起こりえます。
 
かくいう私も大学時代は運動部に所属していましたが
 
医学生だから少しはおしとやかな飲み方をするのかと思いきや
 
「ラブズッキュン」「サンダーバード」「なに持ってんの」などなど
居酒屋に入ったらコールのオンパレード
 
エンドレスに飲まされて、外に出たらオエオエ吐いている人や、店先に大の字になって寝てる人
 
特に他大学と交流戦をした夜は
まるで地獄絵図のような光景が内も外も広がっていました
 
(なお、医学生の1年生は、飲み会で無茶をしやすいと個人的には思っていて、受験期に抑え込んでいた感情が、合格で一気に放出されてハメを外しやすいのではないか?と想像しています。もちろん、個人差があります)
 
 
楽しかったけれど、それで大きな問題にならなかったから、いい思い出だと感慨深げに振り返れます
 

急性アルコール中毒の知識

そのような楽しい飲み会が悲劇とならないために
 
正しい知識を身に着けておく必要がありますね
 

1.アルコールの代謝・分解のしくみ

アルコール(エタノール)は、0.5~2時間で消化管から速やかに血中へ吸収されます。90%は肝臓で下のように代謝されます。
エタノール代謝
出典:日油株式会社 食品事業部 アルコール代謝確認試験
途中の代謝産物である「アセトアルデヒト」が、頭痛、吐き気、動悸などの症状を引きおこします。
 
人によってアセトアルデヒドを分解する能力には差があるため、上記のようないわゆる「二日酔い」症状の起こりやすさは、飲む量だけでなく個人の分解能も関係があります。
 
一般的には、アルコールが体から抜けて無毒化する速度は
体重あたり1時間に約0.1~0.13g(0.1g/kg/Hr程度)とされています
 
例えば、60kgの人がビール(アルコール5%)の500ml缶を2本飲んだ場合…
 
ビールのアルコール量は(500×2)×5÷100=50gなので
50÷(60×0.1)≒8時間と、体の中から排出するために7~8時間はかかる計算になります
 
エタノールアセトアルデヒドも最終的には水・二酸化炭素に無毒化されて、尿と呼気、汗から排泄されます。
 

2.急性アルコール中毒(alcohol intoxication)とは

ほとんどは大量の飲酒で、アルコールを多量に摂取することで生じます。
 
定義は少し複雑ですが、「アルコールの量に応じて生じる、意識障害を伴う運動失調や嘔吐などを生じた状態(=普通酩酊)」で、臨床的には血中濃度0.16%以上、下の表で、酩酊期以上の症状が出現している場合、一般的には急性アルコール中毒と診断されます
 
(そう考えると、周りの飲み会で、急性アル中の診断を受ける人は意外に多そうだ…)
 
 
軽度のうちは、テンションが上がったり、頻脈になったりする程度ですが
喋り方が明らかにおかしいと感じたら、一人で立たせてみて、立位をキープできないようであれば、それ以上飲ませるのは危険です。
血中アルコール濃度と飲酒量・症状の目安 
血中濃度0.45%を超えて来ると、死亡率が上がるという研究もあります。5年間の東京での検査では、147人の急性アルコール中毒死があり、多発年齢は35~60歳。60%は11月~3月の冬期に起こっていますが、夏場でも病院外での死亡例は多くみられます。(東京都監察医務院における急性アルコール中毒死調査)
 

3.アルコールによる死亡原因

お酒の影響 出典:Here’s What Alcohol Consumption Really Does to Your Brain
アルコールによる死因は多岐にわたり
 
1. アルコールによる中枢神経系への抑制作用で、呼吸の司令を司る脳幹部への麻痺が起こると、呼吸停止となるパターン
 
2. 泥酔して仰向けに寝ているところに嘔吐をしてしまい、吐物が気管に詰まって呼吸停止となるパターン
 
3. 直接の原因ではないものの、飲酒運転による死亡事故 などがあります
 
寝ゲロで死亡オチの人生なんて、本当に勘弁したいところです
 

4.急性アルコール中毒の人への対処

救急車 
上記のような症状が出現して、これ以上飲ませるのはヤバイ!
そう考えたら、近くの人が取るべき行動がいくつかあります
 
まずは、意識のある人は暴れてでもお酒を飲もうとすることがあるので
お酒から遠ざけます
 
なだめすかし、優しく介抱して、帰路につかせてあげましょう
 
 
もし、意識がなくてぐったりしている場合は
嘔吐で気管に吐物が詰まらないように、体を横向きにして寝かせます
そして、血管が拡張して体温が下がるので、毛布や上着をかけましょう
 
ほとんどの場合は、この処置で大事に至ることはまずありません
 
しかし、しっかり暖めているにもかかわらず
寒い時のシバリング(震え)とは明らかに異なるけいれん症状
呼吸が非常に弱くなっている、もしくは喉にモノが詰まってゴロゴロと音を立てている
そんなときは、迷わず救急車を呼びましょう
 

5.病院での治療

ここからは医師の仕事になりますが、アル中患者さんが運ばれてきたら
まずは保温しつつ、意識、呼吸、循環の確認をします
 
大体、アル中で運ばれてくる人は、だいたいJCS 100~300(ゆすったり叩いても、目を開けない意識レベル)です。
明らかに呼吸に異常がある場合は気道確保し、最悪挿管も考慮する必要があります。
血圧の低下が著しければドパミン(2~5μg/kg/分)、ノルアド(0.1μg~/kg/分)等の投与を行います。
 
また酩酊中は、ふらついて転倒し、頭を強打することがあります
その結果、脳出血などを併発していることも珍しくはありません
なので、頭部外傷の有無は必ずチェックすべき項目です。外傷があれば頭部CTを撮り、時間が経って慢性硬膜下血腫を発症するリスクがあるので後日要フォローです。
 
 
大抵は、そんなこんなの心配なく
 
「とりあえず、生食いっとこー」
 
と、1,2本点滴して帰っていただく or 意識戻らずあえなく入院になることがほとんどです。
 
 
アル中の患者さんに対して厳しい先生もおり、比較的軽症には
「自業自得の状態に点滴するなんて、医療費の無駄遣いだ!」と、点滴せず処置室に患者さんを放置する先生もいたりします。
(実際、点滴をして回復が早くなるわけではありません。脱水の補正が目的です)

 

道路交通法の規定

飲んだら乗るな 
ちなみに道交法では、呼気1L中に0.15mg以上のアルコールが検出された場合に「酒気帯び運転」としています。なんと、ビールでいうと500ml缶を1本飲んだときの最高血中濃度で超えてしまう可能性もある!
 
0.15mg/L以上で90日以上の免許停止ですが、、、
0.25mg/L以上では更に悪質ということで、免許取消+2年間の免許取得不可となってしまいます
 
3年以下の懲役または50万円以下の罰金で、社会的にも非常に大きなダメージを追うことになってしまうため
 
飲んだら乗るな、乗るなら飲むな
 
これ大事!
 
なおアルコールチェッカーは、Amazonで2000円台で買えたりします
これで検問もばっちり!(乗るなってのに)
 

アルコールを飲ませた人の刑罰

また、お酒の強要は、刑事罰に問われる可能性があります。
 
①無理矢理お酒を飲まされた→強要罪(3年以下の懲役)
②お酒を強要されて酔いつぶれた→傷害罪(15年以下の懲役または50万円以下の罰金)③急性アルコール中毒になった→過失傷害(30万円以下の罰金または科料
③倒れたにも関わらず、救急車を呼ばなかった→保護責任者遺棄致死罪(3カ月以上5年以下の懲役)
 
2017年の学生同士の飲み会で起こった下記の死亡事件は、2019年に「過失致死罪」で略式起訴されています(過失致死罪は50万円以下の罰金)。今後は、学生に対しても保護責任者遺棄致死罪が適用される可能性を考えると、部活動などでの飲酒も、気を遣いながらになりそうです。

(2019年11月2日 9時47分 読売新聞オンライン)

 2017年に近畿大のテニスサークルの飲み会で一気飲みをした男子学生が死亡した事故で、大阪地検は、保護責任者遺棄致死容疑で書類送検された学生ら12人(22~23歳)のうち9人について、より法定刑の軽い過失致死罪で略式起訴する方針を固めた。

 学生の飲酒死亡事故を巡る起訴は異例。他の3人は関与が薄いとして不起訴とする。

 2年だった登森勇斗ともりはやとさん(当時20歳)は17年12月、サークルの飲み会で、ショットグラス約20杯分のウォッカをジョッキで一気飲みし、昏睡こんすい状態になって別の学生宅に運ばれ、翌日、嘔吐おうと物をのどに詰まらせて死亡したとされる。大阪府警は今年5月、3年生4人と介抱役として呼ばれた2年生8人の計12人を書類送検。一部は起訴を求める「厳重処分」の意見を付けた。

 

まとめ

お酒に関する悪いことばかりを書きましたが
アルコールに関する最近のエビデンスを紹介すると
 
我が国の男性を対象とした飲酒と寿命の関係に関する先行研究においては、2日に1回、20gの純アルコール(ビール約500ml)を摂取した人の死亡率が最も低いことが明らかとなっています(Tsugane et al. Am J Epidemiol 150: 1201-7, 1999)海外でも、女性を対象に同様の研究結果があるようです。
 
酒は百薬の長」というのは、あながち間違いでもなさそうです 
 
 
飲酒は節度を守って、楽しい宴会を!
宴会 

調理師免許や警備員に、「麻薬、大麻、覚せい剤等の使用者でない診断書」が必要な理由

懐中電灯を持つ警備員のイラスト(女性・暗闇)
就職や、免許を取ったときに、診断書を求められることがあります
 
通常は、内科などに行って一般的な検査(血液検査、尿検査、レントゲン検査など)と、診察を受けるのですが、時々
 
上記の者は、麻薬、大麻、あへん
又は覚醒剤の中毒者ではないものと診断します。
 
などという文言で診断書が必要な場面があります
 

「薬物の中毒者でない」診断書が必要な業種

調理師、警備員、美容師などでは、この診断書が必要になる傾向があるようです
 
 
アルコール依存症はさておき、世の中の99%の人間は、麻薬や覚醒剤の乱用とは無縁の生活を送っているでしょうから、この診断書に意味があるのか?といったところです
 
 
正直、調理師、警備員だけじゃなく、どの職業でもこれらの乱用者は社会的に受け入れ難い存在なので、なぜこれらの業種だけがこの診断書を必要とされ、他のサラリーマンや技術職には必要ないのかは疑問があります
 
 
ちなみに乱用薬物とは
麻薬=モルヒネ、ヘロイン、MDMA等(合成麻薬)
等=トルエン、シンナー、クロコダイル etc...
あたりを指します
 
中でもヘロイン覚醒剤精神依存(摂取したいという欲求)は群を抜いて激烈で、この薬物の多幸感を味わったら最後、身を滅ぼすまで自分では止めることができない。
 
また、ヘロインは身体依存(下痢・発汗・めまい等)も強く、抜け出すには一生枷を追って生きなければいけない。
 
と、大学の講義で習いました。こわやこわや・・・
 

結局、何故かはわからない

すいません、横道にそれました
 
結論から言うと、ソースがないため
業種によりこの診断書が必要な理由はわかりません
 
依存度が高いと仕事にならないのは当然でしょうが
 
それはやはり他の業種にも言えることなので・・・
 
ただ、雇用者の立場から考えたときに
本人が薬物乱用をしていないという証明は、一定の安心材料にはなりますね。
 

診断書はどう書かれるのか

ちなみに、医療者側としてこの診断書をどう書くかということですが、厳密な作成基準はありません。
 
基本的に対面での問診・診察のみとなります(!)
 
実際の薬物中毒者疑いの患者には、採尿をしてトライエージと呼ばれる乱用薬物のスクリーニングをすることもありますが、健常者にすることはほとんどありません
 
問診で、乱用薬物を使用しているか聞き(している人は、そもそも肯定しないと思いますが)、腕の注射痕を見て確認する程度ですね。
 
「一定の安心材料」にもなりませんね、ごめんなさい
 
診断書は2,000~3,000円程度で発行されます
 
 
数秒問診しただけで書かれるペラ紙1枚が3000円!
いちいち高くて嫌になりますよね(医者様様です
 
 

診断書は、最寄りの診療所へどうぞ

そんなわけで、内科・外科系の診療所に行けば、大概書いてもらえます。
 
 
こんな紙、意味ないじゃん・・・と思っても、組織の要求には応えないといけない。
 
働くためには、様々な不条理を乗り越えないといけないのですね
 
 
とはいえ
くれぐれも違法薬物はダメ、ゼッタイ!

【医師解説】京大病院の医療ミス。当時の会話を再現してみた

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京都大学医学部附属病院のホームページに、事故の詳細な状況について記者会見の発表内容が開示されたため、追記します。

京都大学医学部附属病院
「炭酸水素ナトリウム誤投与による急変死亡について」

https://www.kuhp.kyoto-u.ac.jp/info/pdf/20191119_01.pdf

 

本事案の経緯については上記に詳しく書かれていますが、
今回は報告書を元に会話形式で再現してみました。
(語気に関しては一部妄想が含まれます)

 

薬の濃度間違いによる死亡事故の過去記事は、以下をご覧ください

 

 ・・・・・京都大学医学部附属病院のとある病棟にて

 

担当医「あの入院してる心不全の患者、急ぎで造影CT撮ろ」

 電カルで枠を確認するも、CTの検査は当日枠が空いていなかった

担当「1時間しか無いけど、とりあえず緊急で入れてくれ!」

 造影CTをオーダーすると、放射線科医から担当医のピッチに連絡が来た

放射線科医「先生、この患者さん腎機能がそこそこ悪いんで、普通は6時間前から生食点滴しないといけませんよ」

 マニュアルを見ながらそう説明する放射線科医

担当「えー!ほんとですか、何とかなりませんか?」

放医「一応、時間なかったら重曹点滴って方法もありますけど」

 造影前に重曹(炭酸水素ナトリウム)の処方経験が無かった担当医

担当「重…曹?メイロンのことですよね」

放医「うーん、私たち、普段あんまりオーダー画面見ないんですよね」

 検査や読影を専門とする放射線科医は、オーダリングをほとんど使用しない

放医「でも、重曹がメイロンっていう名前なら、それじゃないですか?」

 実際、メイロン=重曹(炭酸水素ナトリウム)だが8.4%の濃度のみで、重曹点滴として用いるものは1.26%の炭酸水素ナトリウム液と、大きく濃度が異なっていた。

 加えて、メイロン8.4%は250mlのバッグ、炭酸水素ナトリウム1.26%は1000mlのバッグと、規格も異なっていた

 

担当「えーと、メ・イ・ロ…」

 と、担当医がオーダー画面に打ち込むと、メイロン8.4% 250ml等が表示された

担当「造影の時は、1000mlいくんですかね?」

放医「そうです」

 プロトコールでは、造影1時間前に3ml/kg/H、造影3時間後まで1ml/kg/Hが一般的
 そのため、体重60kgでも総点滴量は500~700mlに満たないことが多い。

担当「どうもですー」
担当「えー…てことは、この250mlを4本点滴すればいいってことだよね?」

 オーダーに違和感を覚えつつも、この点滴の使用経験が浅く、更に検査まで時間がなかったため、薬剤師にも相談せずオーダーした。

 

 その後、メイロン8.4%の250mlバッグが4本、病棟へ届けられた
 心不全患者にとっては、致死的な水負荷となりうる量である

看護師「せんせー、これ多いけど、全部イっちゃっていいの?」

担当「うん。イっていいよ」

 

 濃度の高い炭酸水素ナトリウムを速く点滴したせいか、患者は血管痛を訴えた

患者「腕が痛くなってきたんですけど」

看護師「や、ちょっと滴下速度早すぎたかな?」

 投与速度を下げ、穿刺針を太くすることで一旦は痛みが消失する

 

 ・・・・・(造影CT終了)

 造影剤の検査が終わっても、3時間にわたって計1000mlのメイロン点滴が続いた

 

患者「ちょっと、体がおかしいよ。先生呼んでよ」

看護師「先生も知ってますよ。様子をみるように言われてますから大丈夫」

患者「そうですか・・・」

 

 その後、病棟内のトイレで転倒し、心停止になっている患者が発見される

当番医「心停止してる!ベッド移して、心マ(CPR)するよ!!」

 CPR開始から30分後、自己心拍は再開したが心臓マッサージによる気胸を生じ、口から大量の血液が溢れた。

当番医「あー!挿管してCV採ってドレーン入れてぇぇ!!」

 そして気管挿管胸腔内ドレーン留置人工心肺補助装置(PCPS)を行ったが、出血が持続するため、開胸して止血を行った。

 

担当「そういや、抗凝固薬飲んでる…出血が止まらんわけだ…」

 この患者が抗凝固薬のプラザキサ(ダビガトラン;抗凝固薬)を内服している状況を把握できておらず、遅れて中和薬であるプリズバインド(イダルシズマブ)を投与した。


 その後も体内の出血傾向が止まらず、6日後に患者は死亡した。
 プラザキサの半減期12時間でワーファリンよりは短めだが、腎機能障害の程度によっては延長することもある。

 

・・・・・

 

以上となります。

 

ここまでの経緯でいくつか疑問点を挙げます

1. この患者が造影CTを撮ろうとした理由

 心不全+腎機能障害だけであれば、造影CTを撮る理由としては薄いように感じます。虚血性心疾患を疑って、冠動脈CTなどを撮る予定だったのでしょうか?
 病院の文書にも、検査は「必ずしも当日緊急で実施する必要性はなかった」とあるため、担当医の都合を優先して、安全管理を疎かにしてしまったと言わざるを得ません。

 

2. 1.26%炭酸水素ナトリウムをマニュアルとして推奨するべきか

 造影CT前の造影剤腎症の予防として生理食塩水 vs 重曹輸液が多く比較されていますが、メタ解析でも有意差が出たり出なかったりです。ガイドライン上は、時間の無い時には、血液のアルカリ化が腎障害を抑制すると言われており、弱い推奨となっています。
 しかし、今回のような事故を起こすリスクを考えても敢えて使うほどか・・・と言われると疑問です。

 

3. 薬剤師はオーダーされた時に、異変に気が付かなかったのか

 担当医の知識・経験不足が今回の事故の発端と言えますが、それでも防げる場面はいくつかあったように思います。医師が薬剤師に相談していれば。薬剤師がメイロン1000mlという見慣れないオーダーに対して疑義の連絡をしていれば。看護師にメイロンの投与に慣れた人がついていれば。
 個人的には、禁忌ではないにしても薬剤師が気を効かせる場面かと思います。医者贔屓でしたらごめんなさい…。

 

 

以上になります。

 

 京大病院は本当に優秀な人材が揃っていると思いますが、大きな病院にありがちなのが、ヨコの繋がりの脆弱さ。他職種同士の連携がないと穴あきバケツは埋まらないので、徹底した再発防止策を望みます。

【医師解説】京大病院が誤投薬で患者死亡!炭酸水素ナトリウムは怖い薬剤なのか?

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2019年11月19日、京都大学医学部附属病院で、薬の濃度間違いによる死亡事故が起こりました。

 

記事では、以下のように書かれています

 京都大医学部付属病院(京都市左京区)は19日、腎機能障害のある心不全の男性入院患者に、注射薬の炭酸水素ナトリウムを処方する際、誤って本来投与すべき薬剤の6.7倍の濃度の同一成分製剤を投与した結果、6日後に死亡したと発表した。

 患者は成人男性。造影剤を用いたコンピューター断層撮影(CT)の検査を行う際、急性腎不全となるリスクがあった。入院患者の場合は腎保護用の生理食塩水を検査前に6時間点滴する必要があったが、検査までの時間が十分に取れなかったため、代替策として外来患者向けの炭酸水素ナトリウムを用いたという。
 さらに、本来は濃度1.26%の炭酸水素ナトリウム注射液を投与すべきだったが、成分は同じながら、商品名の異なる濃度8.4%の製剤を誤投与してしまったという。

(中略)

 その後、患者は心停止となり、蘇生処置で心拍は再開したものの、心臓マッサージに伴う胸骨の圧迫が要因とみられる肺からの出血が止まらなくなった。止血術などの対応を取ったが、患者の内服薬に抗凝固薬が含まれていることに気づくのが遅れたこともあり、出血を止められず死亡させてしまったという。(引用:京都新聞

上記の事故で亡くなられた男性には、まずお悔やみを申し上げます。

 

今回の医療過誤は、3つの問題点があります

 

①薬剤のオーダーミス

②炭酸水素ナトリウムは腎保護として適切か

③抗凝固薬の情報周知

 

わたしは現在内科医として病院に勤務していますが、この炭酸水素ナトリウムは「ある病気」に比較的よく用いている薬です。見慣れた薬ですが、なぜこのような事故が起こってしまったのか、医師の視点で解説していこうと思います。

 

事故の背景 ~造影剤腎症という脅威~

腎機能障害のある患者に対して、腎臓から排泄される造影剤を用いた場合、「造影剤腎症」という合併症を起こすことがあります。

原因ははっきりとわかっていませんが、造影剤により腎臓への血流障害がおこる、造影剤自体の腎毒性などが挙げられています。

比較的高い確率で人工透析の導入が必要になるため、患者へ大きな負担を強いることになってしまいます。

そのため、腎機能障害がある人へ造影CTをする時にはかなり気を遣って検査を行う必要があります。

その造影剤腎症の予防の一環として用いた「炭酸水素ナトリウム」が、今回の状態悪化の原因であったとされています。

①炭酸水素ナトリウムは薬剤の濃度によって規格が異なる

まず、炭酸水素ナトリウムの添付文書をKEGGで確認しましょう

炭酸水素ナトリウム 1.26%

炭酸水素ナトリウム 8.4%(メイロン)

今回誤って投与された8.4%の炭酸水素ナトリウムは、商品名「メイロン」と呼ばれ、医療機関で広く用いられている薬です。

上記添付文書を見てもらうとわかるのが、炭酸水素ナトリウムは

・1.26%は1000mlのバッグのみ

・8.4%は20mlのアンプルと250mlのバッグ

と、濃度によって薬剤の大きさが異なります。8.4%は、より血行動態に影響を与えやすいためゆっくり投与すべきもので、少なめの量に設定されています。

逆に、1.26%は1000mlの生理食塩水に炭酸水素ナトリウムが混注されており、補液がメインの点滴になります。

なぜ炭酸水素ナトリウムが血行動態に影響を与えやすいかは後述していきます。

 

オーダーミスのチェック機構は働いていたのか

そもそも、医師が薬を誤って処方した場合、それが患者に投与されるまでにはいくつかチェックポイントがあります。

 

1. オーダー時点の自動チェック:パソコン画面に「別規格の薬剤があります」「類似名称の薬剤があります」等のポップアップが流れるようになっている(業者や設定により異なります)

2. 薬剤師のチェック:その患者に対して、薬剤が投与禁忌などに該当しないか確認する

3. 看護師のチェック:薬剤名、投与量などの誤りがないか総合的に確認する

 

8.4%炭酸水素ナトリウムの投与方法は看護師も熟知しておくべきものですが、そもそもオーダーの時点で医師が投与量や投与方法を詳しく記載しておくべき薬剤です。患者の基礎疾患があるならなおさら、投与時にも看護師とダブルチェックが望まれます。

1.の時点で既に間違いがあった可能性が高いのですが、検査前のオーダーであるため薬剤師も看護師も、はっきりと目的を認識できていなかった可能性が高いと思われます。医師の責任が大きい事例と考えますが、コンピューター上できちんとチェック機能が働いているか確認が必要です。

炭酸水素ナトリウムの血行動態への影響 

炭酸水素ナトリウムは、体内のpHを安定させるために重要な役割を果たしており、特に体の中に酸(H+)が多い状態(=アシドーシス)とならないように緩衝材として消費されます。下記の式は酸塩基平衡の式で、H+が増えてきたときは、NaHCO3(炭酸水素ナトリウム)を介して、二酸化炭素と水に変化させることでH+を減らそうとする動きに傾きます。

CO2 + H2O ⇆ NaHCO3  ⇆ HCO3- + H+

 

頻度の高い使われ方として、めまい・ふらつき・嘔吐などいわゆる「めまい症」に対して炭酸水素ナトリウム 8.4%を40mlほど静注する、という慣習?があります。エビデンスは不明です。

 

しかし、少ない量でも血行動態に変化を与えることがあるため、「5分以上かけて、ゆっくり静注する」という注意書きがあるほどです。

 

というのも上記の式にもあるように、酸塩基平衡ではアシドーシスを補正する際に、必ず二酸化炭素、水が出てきます。また、ナトリウム(いわゆる塩分)が補充されるため、血管内のボリュームが増えます。なので、急速に高用量の炭酸水素ナトリウムが投与されると水が増え、心臓への負担が多くなります。

②炭酸水素ナトリウムは腎保護として弱く推奨される

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(参照:エビデンスに基づく CKD 診療ガイドライン 2013)

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 (参照:腎障害患者におけるヨード造影剤使用に関するガイドライン2018(案))

 

 そもそも、「造影CTの前になぜ炭酸水素ナトリウム?」という理由ですが、上記のガイドラインでも記述されています。

ガイドラインによると、炭酸水素ナトリウム自体は、輸液時間の無い時には推奨される薬剤選択です。なので、きちんとしたエビデンスに基づいた医療をしようとしたのは間違いありません。

もちろん、高濃度の炭酸水素ナトリウム(メイロン)を用いる際は、生理食塩水で希釈して点滴する必要がありますが。

(医療者向け)

生理食塩水の点滴は、造影剤腎症の発症を予防するため、造影前後の生食投与は強く推奨される(推奨グレード A)

造影剤腎症の発症率に関しては重曹輸液群が優れていたが、造影剤腎症による透析導入や心不全の発症、死亡率については有意差がなかった。

また、生理食塩液輸液と重曹輸液に有意な差はないとするメタ解析もある。
重曹群 945 例と対照群 945 例を解析した結果は、RR 0.71(95%CI 0.41~1.03)と有意差はないものの、重曹輸液の有効性を示唆する結果となっている。

投与のプロトコールとしては、造影前後6~12時間で1ml/kg/時間の点滴静注が推奨されている。造影前1時間は3ml/kg/時間、投与後6時間は1ml/kg/時間の点滴とするプロトコールもある。

 

炭酸水素ナトリウムは、本来すぐに命に関わる程の水負荷は起こらないと考えられます。もちろん劇薬の指定ではありません。

しかし、今回の男性患者はもともと心不全をもっており、高濃度の炭酸水素ナトリウムで増える水の負荷に耐えられなかった可能性があります。

 患者は心停止の前に「血管痛」「顔面のほてり」「首のしびれ」などを訴えていたようです。すべてが薬剤投与の影響かはわかりませんが、高濃度点滴や心負荷による症状だった可能性もあるため、投与内容を確認するべきだったと思います。

③患者の薬剤情報は主治医が把握しておくべき

この患者の最終的な死因は、「出血性ショックによる多臓器不全」とされています。

つまり、胸骨圧迫による出血を止めることができずに失血死してしまったということです。

 

結果だけを見た場合、胸骨圧迫→胸腔内出血→死亡 というエピソードは頻度の低いものではありません。強く胸を圧迫するため骨折や血管損傷はよく起こる合併症です。

抗凝固薬を飲んでいなかったからといって、この患者が助かったかどうかは微妙なラインかと思われます。

しかし、抗凝固薬の情報があれば、できたこともあります。

たとえば、ワーファリンを飲んでいたならば、拮抗薬であるビタミンKを投与したり、新鮮凍結血漿などを輸血する方法もあったでしょう。

何より、「抗凝固薬を飲んでいる」というのを把握していること自体が、目に見えない胸腔内出血を予測する手がかりになります。そのため、状態が悪化した際により迅速な対応ができたかもしれません。

 

入院患者だったのであれば、少なくとも主治医は内服薬について把握しておくべきだったのではと感じます。

私も、たくさん薬を飲んでいる患者さんは覚えるのが大変ですが、抗凝固薬・抗血小板薬の内服有無は必ず把握するようにしています。

 

裁判になった場合の争点は?

遺族が発生時期などを明らかにしていないため、おそらく和解という形になる可能性が高いと考えますが、医療裁判になった場合を考えてみます。

病院側がミスを認めているのは

・投与した炭酸水素ナトリウムの濃度に誤りがあった

・抗凝固薬を内服している確認が遅れた

という点です。

これらが患者の死亡と因果関係があったかどうかが、争点になると思われます。

患者の全身状態を勘案すると、必ずしも因果関係は証明できないと思いますが、ミスは明らかなため、和解であれば年齢によってはかなりの金額を提示されるのではないでしょうか。

 

しかし、京大病院には、再発防止に向けた対応を強く望みます。

突発性虚血心不全とは?滝口幸広さんが34歳という若さで亡くなる

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滝口幸広さん(Instagramより)

俳優の滝口幸広さんが、11月13日に34歳という若さで亡くなりました。

所属事務所の発表では、死因は「突発性虚血心不全」でした。

 

ウォーターボーイズ2」や「AI探偵」で人気の俳優が30代で亡くなったとあって、ショックだった方も多いのではと思います。

 

 

しかし、突発性虚血心不全というのは医療者としては聞き慣れない単語です。

『急に』『心臓を栄養する血流が不足し』『心不全を起こす』というワードから考えると、おそらく正確な病名は「急性心筋梗塞」による心不全ではないかと考えます。

 

急性心筋梗塞とは

梗塞とは「血流が詰まって壊死する」という意味で、急性心筋梗塞は急に心臓を栄養する血管が詰まってしまうことで、心臓の筋肉が栄養不足で壊死してしまう疾患です。

 

喫煙、糖尿病、脂質異常症、肥満、運動不足、家族歴などがリスク因子となりますが、多くは男女ともに60~70歳代が発症のピークになります。

 

滝口さんは比較的若い年齢で心筋梗塞を発症しており、心臓や脳などの血流障害を起こしやすい家族歴があったのではと推測されます。

 

この年齢で糖尿病、脂質異常症などを持つ方もいますが、滝口さんは中肉中背で、特に肥満体型でもなさそうです。

 

昨日まですこぶる元気にしていた人を突然失ってしまうという病気は、やはり怖いものですね。

滝口さんの関係者の方には、お悔やみ申し上げます。