デイリーハック.com

医療、映画、猫、ANA、仮想通貨、FX…好きなことに片っ端から首を突っ込んでいくスタイル

【事件】松本市の病院における13歳少年の脳ヘルニア死亡について振り返る【CT撮るべきか?】

 f:id:toshiblo:20191205004101p:plain
病院の過失で人が亡くなる、というのはあってはならないことです。
子供がその犠牲なら、なおさらです。
 
事件自体はかなり昔の話になりますが、長く続いている医療訴訟で以下のような記事がありました
 緊急搬送の13歳が死亡、当直医は必要な検査を怠ったのか-横浜地裁、東京高裁判決の詳報 地裁での遺族、病院側の主張
2018年5月1日(火)

頭痛を訴えて長野県の波田町波田総合病院(現:松本市立病院)に救急搬送された中学1年の男子生徒(死亡時13歳)が退院直後に死亡したのは、医師が必要な検査を怠ったためだとして、横浜市の遺族が病院側に計7173万円の損害賠償を求めた訴訟。横浜地裁は医師の過失を認めず訴えを棄却したが、東京高裁は一転して、松本市と当時の担当医に計3260万円の支払いを命じた。病院側は4月12日付で、「受け入れがたい」として上告している。横浜地裁、東京高裁の判決を詳報する。(後略)
引用: m3.com
 
 
 

日本の医療訴訟事情

医療訴訟の原告は患者側となりますが、原告側の勝訴率は2割と非常に低くなっています。
 
その理由として、病院側は勝つ見込みのない裁判はせず、分の悪い事案は慰謝料を渡して和解に持ち込むことが多いからと考えられます。病院はイメージ商売な部分もあるので、敗訴になってしまうと病院の存続に関わりますからね。
 
また医療という専門性のため、病院側の方が知識の豊富な分有利と思われます。分の良い・悪いに関しても、訴訟を起こす前段階で情報や知識を持っているのは病院側になるため、事が大きくなる前に手を打ちやすくなるのではないでしょうか。
 
 
そんな医療訴訟事情が背景にある中で、この事件は起こっています.
2009年なので今から10年前ですが、2019年7月に、最高裁が上告を棄却して原告勝訴となっています。
 
それにしても、とても長引きました。遺族の心労はさぞ大きかったことだと思います。

事件の流れ

事件の流れとしては
 
①13歳少年は事件当時、母と別居し祖父母・叔父と同居中であった
 ↓
②深夜に頭痛・嘔吐・(下痢)を主訴に総合病院へ救急搬送される
 ↓
③担当医師が「急性胃腸炎」「片頭痛」の診断で点滴した
 ↓
④叔父の運転で帰宅したが、その後少年は車内で休んでいた
 ↓
⑤数時間後、朝に車内で心肺停止の状態で発見され病院に搬送されたが、院内で死亡確認
 ↓
⑥死亡後の頭部CTで、左側脳室に9cm大の出血を伴う嚢胞性腫瘤を認め、腫瘤による脳幹の圧迫もみられた。直接の死因は脳ヘルニアとされた
 ↓
⑦「担当医が頭蓋内圧亢進症を疑って必要な検査や経過観察を怠った」として、唯一の相続人である母が原告となり担当医師と病院を開設した松本市に対して約7,137万円の損害賠償を求めた訴訟を起こす
 ↓
⑧一審の横浜地裁では,原告の訴えを棄却
 ↓
⑨二審の東京高裁では,一転して担当医師・松本市に対して3,260万円の支払いを命じた
 ↓
⑩病院側は不服として上告したが、最高裁は請求を棄却。判決が確定した
 
 
 
家庭環境はやや複雑そうですね…
 

争点は

争点としては
 
「搬送時・帰宅時に、検査義務違反・経過観察義務違反があったかどうか」
検査や経過観察を適切に行わなかったことと、嚢胞内出血で死亡したことの因果関係」
の2つが上げられています
 
もともと他院で片頭痛の診断は受けていたようですが
基本的に「頭痛・嘔吐」を主訴として来院した場合は
脳出血・脳ヘルニアを疑って頭部CTを行うべきだと思います(検査義務)
 
ただ、来院時の主訴に関しては遺族側、原告側でやや食い違う点があり
病院側は「嘔吐下痢が主訴で、頭痛は来院時におさまっていた」とし
遺族側は「搬送前から、頭痛・嘔吐を生じてぐったりしていた」としている
 
カルテにどれだけ記載されているかは不明ですが、主訴に関しては言った・言わないの水掛け論になる部分もあるかと思います。
 
ただ、帰宅時に亡くなった男子は、車の前で意識障害を疑うようなぐったりした状態になっており、安易に帰すべきではなかったと考えられてもおかしくないような状況です。
 
 

医療者にできることは

最終的に、2019年7月に最高裁が病院側の上告を棄却して判決が下されました。
しかし、こういった訴訟関連を医療者の立場として見ると
 
「じゃあ、訴えられない為にできることって何?」
 
と考えてしまうわけです。
現状、頭痛・嘔吐を主訴に来る患者は頻度がわりと高く、全例に頭部CTを撮っているわけではありません(夜間ならなおさら)。また、すべての病院で迅速にCTが撮れるわけでもありません。
しかし、判決文には撮る基準が明確でないにもかかわらず、そうしなければ「病院側に責任がある」と断じています。 
 
そうなると、医師が取るべき方法は1つしかありません
・同様の患者に対して、放射線技師を起こして(もしくは呼び出して)CTを全例撮る
・患者の希望等で撮らない場合は、しっかりとカルテに残す
 
国は医療費が高くて云々と言っているのに、裁判所や病院はお構いなしという感じですが、これが流れなら仕方ない、と思うべきでしょうか。

 

日本医療は崩壊していく

日本は、医療に関して本当に恵まれた国です

 
1961年から施行されている国民皆保険制度が施行され
 
すべての患者が1~3割負担、はたまた全額免除という、他国から見れば超レアカードを全国民が持っています。
 
 
そしてひとたび医療事故が起きれば、多額の慰謝料、賠償金を病院へ請求できる。
 
とてもとても、恵まれています。
 
 
医師って、そんなリスクを負ってまで、頑張って救急を受けるべきなんでしょうか?
 
自己犠牲の精神も結構ですが、既に日本の医療体制は破綻しつつあります。